大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京家庭裁判所 昭和47年(家)13871号 審判

本籍 新潟県上越市 住所 東京都世田谷区

申立人 朝山まきえ(仮名)

国籍 英国 最後の住所 東京都世田谷区

遺言者 亡ジョン・スタンレー・ワトソン(仮名)

主文

遺言者亡ジョン・スタンレー・ワトソンの遺言執行者として、東京都世田谷区○○二丁目○○番××号太田正子を選任する。

理由

一  本件申立の要旨は、英国人亡ジョン・スタンレー・ワトソンが肩書住所において死亡したので、既に検認(当庁昭和四六年(家)第七八一〇号事件)を経た遺言書につき、遺言執行者の選任を求めるというにある。

二  本件記録ならびに前記検認事件記録によれば、亡ジョン・スタンレー・ワトソンは西暦一八九六年二月二九日生の英国籍を有する者であるが、昭和二六年来日し、昭和二九年一〇月頃から申立人と同棲し肩書住所に居住し、○○機械の技師等をしていたが、昭和四〇年六月三〇日に同所で遺言書を作成し、昭和四五年五月九日同所において死亡したものであり、遺言者は右遺言書により同人所有の動産不動産等を申立人に遺贈していることが認められる。

三  遺言者の住所は東京にあつたので、本件の裁判権及び管轄権は当裁判所に存する。

四  本件遺言書は遺言者が英文タイプにより日付及び本文を作成し自署捺印しているが、作成に立会つた証人は一名であり、かつその署名はない。よつて、本件遺言の成立及び効力については遺言の方式の準拠法に関する法律第二条の規定によりその成立の当時における遺言者の行為地法・住所地法である日本国法を適用することとする。遺言者は自筆にかえ平素専らタイプライターを使用しており、本件遺言書は同人自らタイプしたものであるから自筆に匹敵するものと認められ、その方式要件をみたし、かつ実質的要件を備えているものと認められるから、わが民法上適法かつ有効であり、また遺産の存在に照らし、遺言執行者選任申立の利益がある。

五  法例第二五条の規定によつて相続の準拠法とされる被相続人(遺言者)の本国法である英国法によれば、相続に関する国際私法の原則として不動産物権については所在地法、不動産以外の権利については被相続人の住所地法によることとされている。前記認定のとおり、被相続人はわが国を終生の地とする意思で永住していたのであり、同人はわが国に英国法上の住所を有したものと認められるので、被相続人の遺産のうち不動産については所在地法、また不動産以外の権利については被相続人の住所地法として、いずれもわが民法を適用することとする。

六  よつて、本件遺言書については民法第一〇一〇条・家事審判法第九条を適用し、主文のとおり審判する。

(家事審判官 朝山崇)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例